キャブレター回想録


高校生のとき、初めてキャブレターをオーバーホールした。

当時乗っていたのは、YAMAHAのYSR50。

ある日、突然エンジンが掛からなくなってしまった・・・

 

あの頃は"インターネット"や"検索"といった今では当たり前の情報を得られるところは何も無かった。

メーカーのサービスマニュアル書やメンテナンス書、パーツリストといった存在も知らなかった。

 

中古車で購入したバイク屋さんは県外(岐阜市)だったので頼ることもできない・・・

 

近所の本屋さんに行き、立ち読みをして、いちばん良さそうな『バイク・メンテナンス 応用編』なる本を買ってきて熟読した。

 

チェックポイントが一目でわかる『バイク・メンテナンス 応用編』

高橋書店 初版発行1988年

 

1)トラブル発見のコツ

2)昨日の調子はあてにならない。走行以前の不調

3)今日も元気だバイクも快調、だといいが・・・。走行中の不調

 

エンジンがかかりにくい。かからない。のページで、考えられる主な原因を上から順にチェックしていくと、キャブレターの詰まりや調整不良にたどり着いた。

そこには"根本的には分解・清掃しなければならない"と記載されていた。

 

いま思えば、何の知識もなく、汎用写真と図を見ただけでよくバラしたもんだ!

 

HONDAのDio時代にホームセンターで買った一番安い工具セットでバラバラにした。

キャブレターを開けると、オレンジやら茶色のドロドロしたものが詰まっていた。

キャブクリーナーやパーツクリーナーを準備しておくといった発想もなく、開けてしまったので、ガソリンで清掃した。

もとに戻せば直ると思い込み、再び組み直し、エンジンを掛けた。

 

エンジンは掛かった!

そしていきなりレッドゾーンまで吹けあがっていった。

 

子供ながらに壊してしまった・・・と思った。

 

途方に暮れるなか、思いついたのは近所の自転車修理もやっているバイク屋さんだった。

なぜか大人に怒られると思いながら、重たい足取りでキャブレターを持っていった。

 

怖そうなオヤジさんに恐る恐るキャブレターを手渡すと、鋭い眼差しの表情は一転した。

嬉しそうな顔つきでキャブレターの構造や機能、洗浄の仕方を教えてくれた。

いま振り返ると、その気持ちは良く分かる・・・そんな歳になったもんだ。

 

・メインジェット

・ジェットニードル

・ニードルジェット

・パイロットジェット

・ニードルバルブ

・エアースクリュー

・スロットルスクリュー

 

各ジェット類の役割やエンジンの回転数と燃料供給量の関係をレクチャーしてくれた。

いまでは懐かしい儀式となったプラスドライバーでネジを全閉にしてから何回転と1/4回転戻しといったセッティングデータも教わった。

 

オーバーホールを終えたキャブレターを車体に取り付け、再びエンジンに火を入れると、アイドリングからレッドゾーンまでキッチリと吹け上がるようになっていた。

 

この少年時代の成功体験は、より一層、バイクを好きにさせた。

 

オヤジさんに教わったことは、この後、大人になってからも活きて、HONDA CB1000SFのVP45のCVキャブやFCR39のキャブのオーバーホールを容易にさせてくれた。

 

時代は移り変わり、

燃料供給装置は、エンジンの吸入負圧を利用して燃料を供給していた従来の「キャブレター方式」から、フューエルポンプによって加圧された燃料をインジェクターで吸入経路に噴射することで混合気をエンジンに供給する電子制御の「インジェクション方式」に移行していった。

 

インジェクション方式の利点は、燃費が良くなったこと。排ガスが綺麗になったこと。燃調セッティングから解放されたこと。その恩恵はたくさんある。

 

外気温や外気圧をセンサーで測定してコンピューターで供給燃料を調整するため、季節の移り変わりで春夏秋冬の気温が変わっても、海抜0mから標高2000m級のワインディングまで気圧が変わっても、いつでもどこでも普通にエンジンは回ってしまう。

凄い時代になったものだ。

 

とは言え、インジェクションになっても燃調セッティングはできるんです。やっちゃいます!

 

インジェクションコントローラーを追加して

マッピングを変更していきます。

メイン補正とレスポンス補正(FCRキャブの加速ポンプにあたる部分)のセッティングを行います。

ここではFCR39のキャブで得た経験が役立ちます。

 

1000rpm→-1% 2000rpm→-2% 3000rpm→+2% 4000rpm→+5%

ボタンでポチポチと±補正。なんて楽チンなんでしょう!文明の進化って素晴らしい!

 

タンクを降ろして、キャブレターを外して、ガソリンにまみれながらキャブを開け、ドライバーでジェット類をクルクル回す。また車体に戻してエンジン掛けて、同調させて・・・なんという懐かしい儀式。

ひたすらボタンをポチっていきます。

 

普通にいつでもどこでも走れてしまうインジェクションですが、燃調セッティングを施すと、エンジンの回り方は別ものに変わります!

 

これもいまでは・・・

電子制御の統合技術が進み、エンジン出力特性が異なるモードをユーザーが任意に選択できるようになりました。

電気的に接続するスロットルバイワイヤによって実現した機能で、レイン・ストリート・スポーツなどのエンジン出力特性の変更のみならず、ウィリーコントロールやローンチコントロール、更にはABS、トラクションコントロール、エンジンブレーキコントロール、サスペンションダンピングなどを同時に変更し、愛車のセッティング(チューニング)を楽しめるよう進化しています。

 

しかし、こんなてんこ盛りの機能を楽しむ人達って・・・

車両に搭載してくるメーカーの技術者って・・・

アナログ時代のチューニングを知っている人やそれを懐かしむ人達なんだよなぁと思います。

 

この先は、変更するという概念も無くなり、すべてがオートモードのみだろうなぁ。

一番良い時代に生まれ、アナログからデジタルへの移行期間に、好きなバイクに乗れていることはとても幸せなことです。

 

キャブを教えてくれたオヤジさん、ありがとうね。


旅のはじまりはモーターサイクル。

 

自由への扉をひらこう。