3気筒エンジンの独特のフィーリングは爆発間隔にあると思う。
エンジンの性格を決めるのは排気量,ボア×ストローク,圧縮比など色々な条件があるが、2気筒以上のエンジンの場合、それぞれのシリンダー内でいつ爆発させるか?というのが性能やフィーリングに大きく影響してくる。それを決定付けるのがクランクピンの配置角度になる。
クランクピンの配置角度が120度で240度等間隔爆発となる3気筒エンジンは、大変バランスが良いといわれる。
「一次振動」も「2次振動」も完全バランスで、一次慣性力によるエンジンを揺するような「カップル振動」が発生するがバランサーで対処する。
■「一次振動」「二次振動」「カップル振動」
ピストンやコンロッドのような質量のある部品が往復運動をすれば振動を生じるが、この振動を生じさせる力には、エンジンの重心を直線的に往復させようとする加振力と、エンジンの重心を軸として回すような力を反復させる偶力(カップル)がある。
また、クランクシャフトの回転数と同じ周期の振動が「1次振動」であり、2倍周期の振動を「2次振動」という。
この加振力や偶力が物理的に釣り合わない不均衡な状態で生じる現象が振動であり、打ち消せないピストンスピードや、残存してしまう異なった方向の慣性力の現れである。
「1次振動」「2次振動」といわれるのはこれらの振動であることが多い。
「カップル振動」というのは一般にクランクピンが位相した気筒間に生じる並行で反対方向の力を指す。偶数シリンダーや左右対称のレイアウトは、これらを解消させる基本的な手法となる。
■並列3気筒エンジン(120度クランク)
3つのピストンを240度ずつ等間隔にずらし、順番に爆発するタイプ。
2気筒エンジンに比べて爆発タイミングが早く、なおかつ1気筒多いため、スムーズに吹け上がる。
<240度 ⇒ 240度 ⇒ 240度 ⇒ 240度 ⇒ 240度 ⇒ 240度>
・デイトナ,ストリートトリプル,スピードトリプル,タイガーが採用。
■並列2気筒エンジン(360度クランク)
2気筒エンジンで最も一般的なものがクランクピンが360度。2つのピストンの上死点が同じで等間隔爆発となる。単気筒をそのまま横に繋げたような構造で力強い鼓動感が得られる。
<360度 ⇒ 360度 ⇒ 360度 ⇒ 360度>
・ボンネビル,スラクストンが採用。
■並列2気筒エンジン(270度クランク)
クランクピンが270度、ピストンの上死点でいえば90度ずれて配置されるタイプ。
不等間隔爆発のため駆け足のようなリズム感がある。
<270度 ⇒ 450度 ⇒ 270度 ⇒ 450度>
・スクランブラー,サンダーバードが採用。
■等間隔爆発のエンジン
4ストロークエンジンの名前の由来は、クランクシャフト2回転ごとに、あるいはピストン4回のストロークごとに、ピストンの上に閉じ込められた混合気を点火することから来ている。
クランクシャフトが2回転するうちに、吸入、圧縮、膨張、排気という4つの行程を消化する4サイクルエンジンでは、クランクシャフトが2回転=720度回転することで全ての気筒が全行程を終える。
・3気筒エンジン(120度クランク)の場合
クランクピンは各気筒ごとに120度の位相角を持つ。
点火順序は#1→#2→#3シリンダーで点火間隔は240度の等間隔爆発となる。
各気筒の行程は720度の間に理想的に分散するため、吸排気ともにバルブの開閉タイミングが爆発間隔の中に収まり、吸気側、排気側ともにバルブが開いている気筒はひとつだけになる。つまり、気筒間の干渉を考慮する必要がないため、吸排気はコンパクトにまとめられる。
・4気筒エンジン(180度クランク)の場合
シングルプレーン型クランクシャフトのピンは180度ごとに配置される。
点火順序は#1→#2→#4→#3シリンダーで、クランクシャフトが180度回転するごとに1気筒ずつ等間隔爆発する。
180度ごとに同じ行程が次の気筒へ移っていくので、バルブタイミングは吸排気ともに各行程の開始と終了の基準となる上下死点よりも早めに開き、遅れて閉じる。
バルブが開くことになる理想的なクランク角範囲は180度であるが、実際に吸排気バルブが開いている範囲は220~230度前後となる。
そのため、180度ごとに次の気筒へと同行程が移る4気筒では、吸排気ともに複数の気筒で同時にバルブが開くことが避けられず、吸排気の流れに気筒間での干渉が起こりやすい。
特に排気での干渉は燃焼ガスが完全に排気されずシリンダー内に残留する。これを避けるためには排気管の集合部までの寸法を長く取るなどの工夫が必要となる。
■不等間隔爆発エンジン
トラクションをコントロールしやすいエンジンがクロスプレーン型の4気筒となる。
クロスプレーン型クランクシャフトのピンは配列される平面が二つ、十字を成していることから名付けられている。90度クランクあるいはダブルプレーンクランクとも呼ばれる。一方、クランクピンが配列される平面が一つのクランクシャフトはシングルプレーンクランクあるいは180度クランクと呼ばれる。
クロスプレーン型の4気筒の場合、隣り合う#1と#2シリンダー,#3と#4シリンダーのクランクピンが90度ずつずれて位置する。これを90度位相という。
#1→#3→#2→#4の順序で燃焼させると、
<270度 ⇒ 180度 ⇒ 90度 ⇒ 180度> の不等間隔爆発となる。
慣性力や吸排気の流れがバランスしていて、高回転までよどみなく回り、高出力を得られるのが等間隔爆発のシングルプレーンクランクのエンジンとなる。
どこまでもグリップするタイヤと接地する路面があれば最強のエンジンとなるが、実際にはどこかでタイヤは空転をし始める。
そこでトラクションを向上させるために不等間隔爆発がつくられた。
トラクション性能を上げ、大パワーを扱いやすく、かつ効率的にスピードに変換する。
概念としては、泥の上を走るにはスリックタイヤよりブロックパターンの大きなモトクロスタイヤが向いている。爆発圧力の振幅に相当するものがブロックであり、そのブロックの間隔は一定よりも不規則な方が泥を捉えやすい。このブロックの高さや配置を不規則な爆発間隔で実現する。
爆発していない時間を長くとることによって、クランクシャフトの角速度変動を大きくする。角速度とは回転する速さのこと。しかし、クランクはピストンが上下に往復する運動を回転運動に変えている部品なので、厳密にはその回転速度にはムラが生じている。つまり、クランクの角速度変動を大きくするということは、クランクが回転する速度につきまとうムラの変動を大きくするということになる。
HONDAのNSR500ではスタンダードな90度クランクの等間隔爆発をはじめ、180度2気筒同爆(スクリーマー)、68度不等間隔爆発(ビックバン)が使われた。
ドゥーハンの表現を使えば「かったるいエンジンの回り方」にすることで、どんどんスロットルを開けていけるようにしている。
あえてバランスを崩したエンジン = グリップするエンジン = 面白いエンジン = 味のあるエンジン ということになる。
■タイヤにおけるパワーパルス
エンジン回転数が10,000rpmのとき、クランクは1秒間に166回まわる。
10,000rpm÷60m=166.6回
バイクが100km/hで走行している場合、17インチホイールのリアタイヤの外周を2.0mとすると、リアタイヤは1秒間に14回転する。
100,000m÷3600s=27.7m/
27.7m/s÷2.0m=13.8回転
つまり、ホイールが1回転する間にクランクは12回転近く回ることになる。
166.6回÷13.8回転=12回転
3気筒エンジンではクランク1回転で1.5回の爆発があるから、ホイールの1回転には18回のパワーパルスがある。つまりリアタイヤは11㎝に1回、新しいパルスを得ることになる。
200cm÷18回=11㎝
4気筒エンジンではクランク1回転について2回の爆発があるから、ホイールの1回転には24回のパワーパルスがある。つまりリアタイヤは8cmに1回、新しいパルスを得ることになる。
200cm÷24回=8㎝
不等間隔爆発車のタイヤ外周上のトラクション伝達のイメージは?というと、
ビックバンエンジンでは小さなパルスがタイヤを8cmごとに1回プッシュする代わりに、4つのパルスをまとめてタイヤの回転の16~18cmごとに1回の長いプッシュを与え、次の長いプッシュが始まるまでに約16~18cmの大きなギャップを作ることになる。タイヤの1回転に5回の長いプッシュと5回の長いスペースとなる。
理論的には、タイヤがそれぞれのパルスを与えられると、力によって変形とよじれが起きて、それが連続する。その結果、タイヤは動き出したりスライドしたりする。
それぞれのパワーパルスの間が長いと、タイヤにグリップを取り戻す時間を許すことになる。パワーの初期パルスが大きいことでタイヤがグリップを得るのを助けることになる。これはタイヤのゴムを路面に食い込ませ、その次に大きなパルスが来るまでの長いスペースはタイヤを前に回転させて、ゴムの新しい新鮮なセクションを提供することになる。
ライダーは、トラクションをコントロールしやすい、グリップするエンジンを好む。